美容皮膚科・レーザー指導専門医取得にあたって思うこと

プロフィール

このたび、日本皮膚科学会から美容皮膚科・レーザー指導専門医として認定されました。

あまり聞いたことのない資格だと思いますが、詳しくはこちらのページに記載されています。

https://jdacareer.jp/3rd/special01.html

取得条件としていろいろありますが、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医であるということが必須条件です。

その理由として、

美容皮膚科で最大の問題になることとして、良性か悪性かを判断できることが求められます。それとともにまずは、最低限、専門医を持っていることも必要となります。

(中略)

上級専門医となった理由は、やはり治療だけでなく、診断をしっかりした上での治療学ということを求められると思っています。(上記ホームページより)

とあります。

美容医療が世間的に認知されるようになり、美容皮膚科に携わる医療従事者が増えてきました。

と同時に、医学的・金銭的なトラブルも急増し、様々なクレームが関係省庁に寄せられるようになってきています。

美容皮膚科・レーザー指導専門医の資格はこうした流れを受けて設立されたものであり、「皮膚の基礎を熟知した皮膚科医が美容分野を発展させるべき」との考えに基づいています。

日本全国で皮膚科診療を行っている医師のうち、皮膚科専門医を取得しているのは3割ほどというデータがあります。

皮膚科専門医が約7000人ですから(令和4年4月現在)、トータルで2万人以上の医師が皮膚科に携わっているという計算で、保険診療を行わず美容皮膚科のみを行っている医師も含めるとその数はもっと多いと想定されます。

そのうち美容皮膚科・レーザー指導専門医は全国で50人程度(令和4年4月現在)という狭き門でもあります。

誤解のないように書いておきますが、この資格がなくても美容皮膚科診療を行うことは可能です。法的に何ら問題はありません。

むしろ最近の美容医療ブームもあって、研修医終了後すぐに(保険診療に携わることなく)美容の道に進む人も増えてきており、医師免許さえあれば誰でも美容皮膚科医を名乗ることができます。

それはそれで、道を極めるという意味でプロフェッショナルな一面もあるのですが、私自身が医師として大切にしていることとして「美容の前に病気の可能性を除外する」というものがあります。

ほくろだと思ったら皮膚がんだった、というような事態が起こらないようにしたいのです。

日常診療において、99%以上は良性です。ほとんどの場合、診断せずに治療をしても問題にならないでしょう。

しかし、皮膚がんを診たことがない人は、それが皮膚がんかどうか分からないですし、そもそも皮膚がんかもしれないという発想すらないかもしれません。

悪性のものを疑う目で診ていかないと、忙しい診療の中に紛れ込んでしまうのです。

実際のところ、顔に多数散らばる良性のイボの中に1つだけ皮膚がんが混じっていた患者様がいらして、ホッと胸をなでおろした経験があります。

私自身は大学病院を中心に一般皮膚科診療のトレーニングを積んでから美容皮膚科の道に入ったので、美容皮膚科は一般皮膚科の延長だと思って仕事をしています。

保険診療でできないこと、保険診療よりも良い結果が出せること、を美容皮膚科として行っています。

医療の一部である以上、安心安全が大切だと思っていますし、不必要なものを無理やり勧めたりということも好きではありません。

私が研修医の時に上司の先生から言われた言葉が今でも印象に残っています。

「手術の時に『この血管を切れ』と言われたら、誰でも切れる。ハサミを渡せば、(法的な問題を除いて)看護師でも切れるし、ハサミを扱える幼稚園児だって切ることができる。でも、『この血管を切ってもよいか』を判断できるのは医者だけだ。だから、手術の時に血管を切れるのは医者だけなんだ。」

実は、美容皮膚科でも同じことが言えるのではないかと思うのです。

最近はSNSやYouTubeなどで施術動画を観ることができますよね。

シミ治療レーザー、ヒアルロン酸注入…

「ハンドピースを当ててフットスイッチを押すだけなんだから簡単そう」「顔に注射を打つだけでしょ?」そう思われる方もいらっしゃると思います。

でも、「そこに打っていいのか」をきちんと判断することが大切だと私は考えています。

もちろん、深く考えていない医師もいるとは思いますが、例えばシミであれば「悪性のシミ(がん)ではないのか?」「良性のシミだとしてどのタイプか?」「他のシミは合併している?」「どの機械でどの波長でどの出力で当てる?」「経過中に予想される合併症はないか?」ということが重要で、施術と同じくらいアセスメント(ビフォー)とフォローアップ(アフター)を大事にしています。

また、例えば施術後に顔が腫れあがった場合、使用薬剤にかぶれたのか、傷口から感染したのか、やけどなのか、といったことを適切に評価して治療することが重要で、その部分に一般皮膚科診療の経験が役立っていると感じています。

どんなに気を付けて施術をしても、不測の事態や事前に予想できない合併症が起こる可能性は残念ながらゼロにはできません。

しかし、何か起こった時にどう対応するかというところで医師の真価が問われると思うのです。

治療技術というとレーザー照射や注入といった施術の瞬間にフォーカスされますが、実際にはそれ以外の要素も含めることで安心安全な治療になるのだと考えています。

美容の症例数だけを比べれば、研修医終了後すぐに美容の世界に入る方が圧倒的に数をこなせますが、私とそういった先生方で違いがあるとすれば「治療の前後の部分をどう捉えているか」だと思います。

ビフォーアフター写真とは違う意味で、ビフォーとアフターを大事にしています。

医師の技術を測るというのは難しいですが、この指導専門医資格を取る際には治療業績や症例レポート、学会発表や論文を日本皮膚科学会から審査されています。

少なくとも、医学的根拠に乏しい怪しげな治療や商業的な治療をしてきたわけではないという証明にはなると思います。

この資格を取ったからといって私自身が何か変わるわけではなく、今までの診療を指導専門医という形にした意味合いが大きいですが、これからも知識や技術の研鑽を惜しまずに診療に向き合っていきますので宜しくお願いいたします。

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA