【皮膚科専門医が解説】市販薬リンデロンVs、使用上のポイントと注意点

一般皮膚科

処方薬としてよく知られるリンデロンVの成分とネーミングを用いて、リンデロンVsとして市販化(OTC医薬品)されています。

2021年2月発売です。

薬局で見かけたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

リンデロンVは知名度がありますので、市販化されたことで手が届きやすくなったことと思います。

リンデロンVsには軟膏とクリームタイプがあり、軟膏はワセリンベースですのでしっとりしており、ジュクジュクとつゆが出る部分にも使えます。

一方クリームタイプはべとつき感がなく夏に使用しやすいですが、ジュクジュクしている部分やひびわれている部分に使うとしみて刺激になることがあります。

双方の特徴を生かして上手に使い分けるとよいです。

(ちなみに、リンデロンVに抗生物質が配合されたリンデロンVGのジェネリックとしてベトノバールGがありますが、それに名前の似たベトネベートクリームS・ベトネベートN軟膏ASも市販されています。)

このリンデロンVsは、処方薬のリンデロンVと同等の効果ということで、皮膚科に行かなくても自分で治せるというのがメリットではあるのですが、いくつか注意点があります。

実はリンデロンと名の付く処方薬はたくさんあるんですね。

眼科や耳鼻科でも処方されるリンデロンA軟膏(眼・耳科用で点眼・点耳液もあります)、皮膚科でよく出されるリンデロンV、リンデロンVG、リンデロンDP軟膏です。

この中で最も知名度が高いのはリンデロンV、リンデロンVGで、他科の先生が患者様から皮膚が痒いなどと相談された時に「まずはこれで様子を見て、治らなかったら皮膚科へ行ってね」と処方するパターンも多いです。

ところが、他科から出されたこともあって違う場所にも塗ってしまった、目周りのリンデロンAと勘違いしてしまった、などで、余ったリンデロンVを顔に長期間塗ってしまったというケースがたまにありまして…

顔に必要以上に強いステロイド(リンデロンV、リンデロンVG、リンデロンDP)を長期間塗り続けると、副作用の側面が強く出てしまうんです。

酒さ様(しゅさよう)皮膚炎といって、血管が開いた独特の皮疹になってしまうのですが、治療に時間がかかって大変な患者様も数名いらっしゃいます。

リンデロンVsの使い方の詳細は、製品サイトに書いてあるのですが…

 

皮膚科専門医からのポイントとしましては、「原因がはっきり分かっている」「急性のもの」で「顔や陰部には広範囲に長期間使わない」です。

「原因がはっきり分かっている」というのは、虫さされ、日焼け、うるしかぶれ、ヤケドなど自分で思い当たるフシがあるものです。

夏はこのケースが多いと思います。

これに照らし合わせて、経過が急性(原因となるであろうことから2-3日以内で突然発症)だということも大切です。

リンデロンVsのサイトでは「顔面には広範囲に使用しないでください」とあります。

この場合の広範囲の定義として、

顔(あごからおでこまで)の、おおよそ500円玉大を超える範囲を「広範囲」といいます。(シオノギヘルスケアのリンデロンVsサイトより)

となっているのですが、実際の使い方としては上記の通り、虫さされなどを対象にしていると考えられます。

範囲だけの指定ですと何にでも塗っていいような印象がありますが、使っていい場面を見極めることが大切です。

「原因がはっきりしていて経過が急性のもの」というのは、皮膚科専門医がわざわざ問診しなくても患者様ご自身が一番よく分かっている、というケースです。

こういった場合、市販薬が活躍することと思います。

しかし、処方薬相当の製品ですから、使い方を間違えると厄介であることも事実です。

①そもそもの診断が間違っているケース

・虫さされと思っていたら帯状疱疹だった、口唇ヘルペスだった

・あせもと思って塗っていたら、ニキビだった

・かぶれたと思っていたが、水虫だった

・デリケートゾーンが痒くてずっと塗っていたが、実はカンジダ(皮膚に常在するカビの一種)だった

リンデロンVsはステロイドですので、皮膚の感染症には効き目がないだけでなく、むしろ悪化します。

この辺りを見極めるのが皮膚科専門医の仕事ではあるのですが、さっき私がお伝えした原則「原因がはっきりしている」「経過が急性」に照らし合わせてみてください。

帯状疱疹の場合、「外に出なかったんだけどなあ」「虫さされの痒みはなくて、むしろ痛いんだけどなあ」など矛盾する点が出てくることが多いです。

分からない時、経過がおかしい時、遠慮せず皮膚科専門医を受診してください。

②リンデロンVsでは効かなくてこじれてしまうケース

リンデロンVsはステロイド薬の中で最強ではありません。(「OTC薬の中では最強の」ストロング strongと言われていますが、ステロイド薬の最も強い分類はストロンゲスト strongestです。)

かぶれや虫さされでも、炎症・腫れがひどい場合などはリンデロンVsでおさまりきらないこともあります。

ここで掻き壊してしまうと皮膚炎が悪化したり、細菌がついてとびひに移行するケースがあります。

水虫、とびひなどの皮膚感染症は、夏に悪化しやすいです。

リンデロンVsのサイトには「長期連用しないでください」となっており、「1週間以上は続けて使用しないでください」とあります。

1週間塗ってよくならない、かえって広がったという場合、診断が違う or 違う皮膚病を合併した or 薬の強さが合っていない、などが考えられます。

③アトピー性皮膚炎など慢性疾患に自己判断で使ってしまうケース

アトピー性皮膚炎など年単位で治療していく病気の場合、「待ち時間が辛い」「受診が大変」などで皮膚科から遠のいていってしまう患者様もいらっしゃいます。(これは申し訳ない面も当然あります。)

市販薬で買えたらいいのに、と思っていた患者様も多いことでしょう。

しかし、アトピー性皮膚炎の場合、症状によって薬の強さを使い分ける必要がありますし、症状のコントロールが悪いと皮膚バリアが弱くなることからヘルペスやとびひを合併しやすくなるんですね。

今は、症状が落ち着いた時に用いる非ステロイドの処方薬も数種類あります(プロトピック軟膏、コレクチム軟膏)。

私自身、アトピー性皮膚炎の顔の症状に対して一時的に強いステロイド薬を塗る指示を出すこともありますが、必ず1-2週間後に経過を診せてくださいとお伝えしています。

自己判断で全身をリンデロンVsのみで長期間治療していくと、ステロイドの強さが足りなくて改善に乏しいか、顔に対して強すぎて酒さ様皮膚炎になってしまう可能性があります。

リンデロンVsは、先ほど原則で挙げた「原因がはっきり分かって」「経過が急性のもの」を適応としてお使いいただければと思います。

コロナ禍で受診控えが起こり、なるべく病院へ行かずに治したいという人が増えていることと思います。

また、コロナ以前から問題になっていた医療費の高騰を考えますと、セルフメディケーション(自分で治せるものは自分で治す)に移行していく流れはこれからも加速していくと予想されます。

しかし、市販薬でリンデロンと名の付くものが手に入るようになり、便利な反面で心配な面も出てきます。

市販薬でできる範囲とできない範囲をきちんとお伝えすることも、皮膚科専門医の大切な役割だと考えて記事を書きました。

ご自分で治せるもの、治せないものがありますので、お困りの際は皮膚科専門医へご相談くださいね。

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